「通販生活」表紙炎上と現代の情報戦

テレビ画面に映る戦場を猫が眺めている。画面のこちら側は、猫が人語を話すファンタジックな異世界であり、戦争が進行中の現実世界から厳然と隔絶されている。下に置かれたテキストを踏まえて見れば、実によく考えられたデザインである。 もちろんこれは人間…

「値上げに消費追いつかず」?──報道言語の〝奇形化〟が暗示するもの

時間の制約や各方面への過剰な気配りが災いして事実関係を間違えたり、意味不明な文章を流してしまうことは往々にしてある。それが文章で生計を立てている職業ライターであったとしても、多くの心ある読者は、彼ら彼女らも生身の人間であるゆえ致し方ないと…

「不可能」の精算を前に

政府は8月24日、福島第一原発から出る処理水の海洋放出に踏み切った。奇しくもこの日はシモーヌ・ヴェイユ(1909~43)の80回目の命日でもあった。放出の賛否をめぐる阿鼻叫喚の数々に目を通しているうち、ヴェイユの言葉が思い起こされたのも果たして偶然だ…

最近の「報道言語」自壊の一例について

単なる無知なのか、それとも故意によるのか──。 名古屋出入国在留管理局で2年前に死亡したスリランカ人女性の死亡前の映像を遺族側が公開したことについて、斎藤健法相が「問題視した」という記述が複数の記事にあった。以下の引用は共同通信記事のリード部…

死刑判決の可能性──安倍氏殺害事件は「令和の暗黒裁判」となるか

安倍晋三元首相が銃撃され殺害された事件から半年を経て、現行犯の山上徹也容疑者(42)が13日、殺人と銃刀法違反の罪で起訴された。犯行の計画性や精神鑑定結果などから、奈良地検は同容疑者に刑事責任能力があると認めた。審理は裁判員裁判になるという。 …

株=毒饅頭による「1億総与党化」への道

自民党経済成長戦略本部が先月30日、岸田文雄首相に対し「新しい資本主義の実現のための成長戦略についての提言」を行った。速報としていち早く取り上げたTBSをはじめ、メディア各社の報道では「1億総株主」の文言が見出しに躍り、巷間様々に物議を醸すこと…

「メディア主導」による隠蔽の徹底解明を──「反戦デモ」問題

いまだ真相の大半が闇の中ではないだろうか。現時点で分かっているのは、防衛省陸上幕僚監部が2020年2月に記者向けに開いた「勉強会」で、配布資料にあった「不適切な」記述を修正の上で再配布したという程度だ。資料には、陸上自衛隊が武力攻撃には至らない…

これが「対岸の火事」でなくなる日のために

ぐずついているうちに日が過ぎてしまった。ミャンマー軍事政権成立から1年の今月1日、朝日新聞夕刊の「素粒子」で目に飛び込んできた7文字の衝撃をどう表現したらよいのか、あれこれ考えながら日を送ってきた。よりによってなぜこの表現を──。選択肢は他にな…

一人の新人記者を守らなくてはならない理由

旭川医大で学長選考会議を取材中の北海道新聞(道新)記者が大学職員に常人逮捕された事件について、道新は7月7日朝刊に社内調査結果を掲載した。その内容は、時系列を追った当事者間のやり取りにも曖昧な点や矛盾が目立ち、まるで責任の所在を関係者全体に…

Scene Changes──そして奈落の底へ

コロナ禍による緊急事態宣言下、憲法改定のための改憲手続法(国民投票法)の改正が11日、参院本会議で可決、成立した。立憲民主党の要求により、CM規制の強化などについて改正法施行後3年を目途に必要な措置を講ずるとした修正が付則に盛り込まれたが、政権…

「あの施設で」と考えた理由──相模原市におけるパラ聖火の採火

血が流れた地面にも植物は花を咲かせ果実を実らせる。その場所で斃れた人々は後の出来事について、賞讃も不平も述べることはできない。ここ数年、そんな現実の不条理を思い知らされることがどれほど多くなったか。今夏に決行されるらしい東京五輪・パラリン…

「報ステ」炎上CMが語っているもの

「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって今、スローガン的に掲げてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」──。これらの台詞がやり玉に挙げられ、3月22日からネット上に流れたテレビ朝日「報道ステーション」のWebCMが2日後に公開中止となった。ジェンダ…

政権が主導する「独立」の罠──学術会議問題

会員の任命拒否問題から思わぬ方向へ火の粉が飛び、組織の在り方について政府から見直しを求められていた日本学術会議が16日、井上信治科学技術担当相に中間報告を提出した。その1週間前には、自民党のプロジェクトチームが同会議の改革に向けた提言をまとめ…

死者は「誰の」ものか?

考えるきっかけになったのは12月3日に配信された朝日新聞デジタル版の記事(有料記事)だった。記事自体は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」を鑑賞した後の感想文のような内容で、筆者の思いは「自己犠牲」の崇高さをめぐって中学生当時に見たアニメへと遡り…

「違法状態」の学術会議が問われる適格性──軍民両用問題をめぐって

10月1日付の赤旗特報が発火点となった日本学術会議会員6人の任命拒否問題は、政府側が拒否理由を明確にしないまま、あれよあれよという間に学術会議という組織の在り方に論争が広がった。遂には同会議が禁忌としていた科学技術の軍民両用(デュアルユース)…

この国の正義とは(【書評】ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相)

ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相 作者:朝日新聞取材班 発売日: 2020/05/13 メディア: 単行本 世界に衝撃を与えた日産自動車前会長カルロス・ゴーン氏の電撃逮捕から1年半が経った。「自らの報酬を過少に申告した」「為替取引の含み損を会社…

岡村発言と「非常時への思惑」

お笑い芸人の岡村隆史がニッポン放送の「オールナイトニッポン」(4月23日深夜放送)で「コロナが明けたらなかなかのかわいい人が、美人さんがお嬢をやります」などと発言したことが批判を浴び、本人が謝罪する展開になった。コロナ禍の影響で風俗店に行…

メディアが先導する日本語表現の破壊

10月4日から臨時国会が始まる。メディアの報道に表れる狂気じみたものに辟易するうち、時として「耐性が付いているのでは」と慄然とすることもある。直近では産経新聞の次の例が特に目を引いた。冒頭の行の錯乱した文章には、呆れるというより空恐ろしさを覚…

「視野の外にある」ということ──丸山「戦争」発言に関して

北方四島ビザなし交流訪問に参加した丸山穂高衆院議員が「戦争による島の奪回」を口にした問題では、16日までに日本維新の会が同議員を除名、主要野党が議員辞職勧告決議案を出す方向で一致した。これに対し同議員は、辞職勧告が決議されても任期を全うする…

新元号到来を前にマイルス・デイヴィスを聴くということ

1週間ほど前の午後、憂鬱な用件を一つ片付けた後でサンマルクカフェに入り、チョコクロとカフェオレを注文して、柄にもなく贅沢に時間を潰していた時のことだった。 店内には、ピアノトリオが演奏するジャズスタンダードナンバーの”Stolen Moments”(オリヴ…

歴史記録としての卒業アルバム

昨年5月に3年生の女子生徒が自殺した熊本県内の高校の卒業アルバムをめぐって、以下のようなニュースが報じられた。亡くなった生徒の顔写真を外してアルバムが作成され、遺族の反発を受けた学校側は生徒の写真を空きページにテープで貼って応急対応したと…

直接民主制についての所感(2)──国費は「不可侵の聖域」か

東京地裁が2月5日、大嘗祭に公費を支出することの是非について下記記事のような判決を下した。慰謝料についての第1回口頭弁論は記事にある通り同月25日開かれ、これについても国は争う姿勢という。 digital.asahi.com 大嘗祭に関しては、秋篠宮文仁親王…

直接民主制についての所感(1)─「国民投票法」と呼ばれる制度

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先として名護市辺野古沿岸部を埋め立てる事業の是非を問う沖縄県民投票は、24日投開票され、「埋め立て反対」が投票総数の7割超を占めた。しかし、昨年暮れから始まった辺野古沿岸部への土砂投入は2日経った今…

ゴーン氏への追加報酬計上にみる「文学」

法律は何のためにあるのか。 個人あるいは法人は生活や事業を営む上で、それぞれの国の法律や国際法には従うことを求められる。もちろん、ただ従うだけでなく、条文を理解して各人の活動に遺漏が無いようにできればベストである。それは「法律を理解していれ…

ザ・国策捜査が目指すのは自動運転時代を見据えた「日産国有化」か

日産自動車は5日、臨時取締役会で4月8日に臨時株主総会を開くことを決議した。議題は①カルロス・ゴーン氏とグレッグ・ケリー氏の取締役解任②ルノー会長のジャンドミニク・スナール氏の取締役選任──に限定するという。一方、特別背任罪などで起訴されたゴ…

地方自治の「身体性」──沖縄県民投票をめぐって

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先として名護市辺野古沖を埋め立てる計画の是非を問う県民投票が、今月24日に全県で行われることになった(14日告示)。「賛成」「反対」2択による実施に県内5市長が不参加を表明したことによる混乱は、「ど…

安倍政権時代と日産ゴーン事件

間もなく平成が終わる。勤労統計不正問題でかなり怪しくなったが、2013年以降の第二次安倍政権下で、日本経済はリーマン・ショックから立ち直りの道を歩んできたと喧伝されてきた。日経平均株価は18年中に2万4千円にタッチする山が2回あり、昨年1…